崖っぷちライターだった私を救ってくれた文章読本とは?
ブログを書くには当然ながら一定の文章力が要求されます。もちろん名文が書けるようになる必要はありませんが、人並み以上に収益を上げたいと思うなら、相応の文章作成能力はやはり必須といえるでしょう。
そういうと「自分には文才がないから‥」と弱気な声が聞こえてきそうですが、心配は無用です。じつのところ、かくいう私も文才などというものとはまったく無縁の人間で、以前は自分でも嫌になるほどたどたどしい日本語しか書けませんでした(今もけっして得意ではありません)。
ところが、どういう運命のいたずらか、そんな私がなぜかマスコミ業界へもぐりこみ、しかもライターという肩書きで何食わぬ顔で仕事をしていたのですから、当時バブルの余韻さめやらぬ時代だったとはいえ自分でも驚いてしまうというよりあきれかえってしまいます。
とはいえ仕事である以上、文才がないから、などという言い訳は当然通用しません。そこで少しでも文章能力を高めようと一念発起した私がやったのは何かといえば、仕事そっちのけで(オイオイ‥)目についた文章ノウハウ本をかたっぱしから読みあさることでした。
文字通り泥縄というべき崖っぷち状態だったわけですが、結論からいえばぎりぎりセーフ。すくなくとも経験の浅い編集者にはアラが見抜かれない(汗)程度の文章が書けるようになったおかげで、かろうじて仕事を失わずに済んだという次第です。
しかし、今振り返ってみるとそうした文章ノウハウ本の中で「本当に役に立つ!」と思えた本はそれほど多くありませんでした。というより実際には数えるほどしかなかったというのが正直なところです。
ということで以下、崖っぷちライターだった私を窮地から救ってくれたそれら「本当に効果があった」文章ノウハウ本の中から、とくにおススメのものを厳選してご紹介します。
オススメ文章読本 その1 『日本語の作文技術』
一冊目は「日本語の作文技術」です。
初版は1976年とかなり古い本ですが、最近、改訂出版されたことからもわかるように有名文学者以外による文章読本としては異例のロングセラーを記録している本であり、名実ともに名著といっても過言ではないと思います。
私も若い頃、これを読んで目からウロコだったのを思い出します。
とくに印象的だったのは修飾語の並べ方に関する部分です。たとえばこんなくだりです。
1、Aは私がふるえるほど大嫌いなBを私の親友のCに紹介した。
2、Aが私の親友のCに私がふるえるほど大嫌いなBを紹介した。
3、私がふるえるほど大嫌いなBをAが私の親友のCに紹介した。
4、私がふるえるほど大嫌いなBを私の親友のCにAが紹介した。
5、私の親友のCにAが私がふるえるほど大嫌いなBを紹介した。
6、私の親友のCに私がふるえるほど大嫌いなBをAが紹介した。
このうちどれがもっともわかりやすい文章であるかが詳しく説明してあるのですが、それがまた徹底して論理的かつ分析的なんですね。
自らのセンスのなさを棚にあげて「文章なんて要はセンスじゃん」とたかをくくり、それまで修飾語の並べ方など意にも介さなかった私にとって、この本との出会いはまさに天地がひっくりかえるような衝撃的な「事件」でした。
著者の本田勝一氏については、思想的に偏っているとして敬遠する人も多いようですが、すくなくともこの本に関しては偏見抜きで高く評価すべきだと思いますし、実際そのような声はネット上にも数多く上がっています。
いずれにせよ、それまで「センス」の一言でかたづけられてしまっていた日本語の文章作法の秘奥を誰でも応用可能な「技術」として広く国民に開示してくれたことは、著者である本田氏のまぎれも無い功績といえるでしょう。
オススメ文章読本その2 『レポートの組み立て方』
2冊目は『レポートの組み立て方』(木下是雄/ちくま学芸文庫)です。
この本は、ややもすると曖昧になりがちな日本語表現をどうすればより明晰なものにできるかという問題意識をもつ理系の学者が、そのためのノウハウをわかりやすく解き明かしたものです。
同じ著者が書いたものに『理科系の作文技術』というベストセラーがありますが、この本はそれを文科系の学生や一般社会人向けに編集しなおしたものです。
ここには、書く上での心構えから材料集め、文章表現の仕方、さらに原稿用紙の使い方まで、レポートを書く上で必要なことは網羅してあるのですが、なかでも個人的に役に立ったのが「目標規定文」のくだりです。
目標規定文というのは、書きたいこと(主題)をごく短い文章にまとめたもので、これから書く文章は何を目標としているのか、そこで何を主張しようとしているのかをあらかじめ明文化しておくというものです。
具体的には次のような文章です。
このレポートでは、国産米は他国米と生産コストにおいて太刀打ちできるはずがないことを明らかにし、日本もコメ農業の将来計画はこのことを前提として立案するほかないことを主張する。
このレポートでは、同一労働同一賃金の原則をみとめる以上、男女平等と女性保護とは相容れないことを論証し、この二つを両立させるためには、保護施策のために生まれる男女間の賃金格差を国家が補償するほかないことを主張する。
またなぜ目標規定文が必要なのか、そのメリットとして本書では次のふたつが挙げられています。
1)一字一句吟味しながら簡潔な目標規定文を仕上げることは、主題ーーレポートのエッセンスーーを明確化するのに役立つ
2)目標規定文と照らし合わせながら資料を探索・取捨選択し、またレポートの構成を検討することによって、レポートがすっきりと筋のとおったものになる
この目標規定文という考え方に出会ったこともまた自分にとって目からウロコの体験でした。
というのも、それまでの私は断片的なアイディアがひらめいた時点で舞い上がり、いきなり書き始めてしまうという悪い癖があったからです。
しかし、ゴールとなる結論すらみえてないままやみくもに書き始めても、道に迷わずゴールにたどり着けるとはかぎりません。当然ながら途中で脱線し、それ以上何を書けばよいのかわからず、にっちもさっちもいかないような状態に陥ってしまうこともしばしばでした。
けれど最初にこの目標規定文を書いておけば、もうそんな心配は無用です。もし途中で道に迷いそうになったら、この目標規定文を見直せばよいからです。そうすれば正しい道がどこにあるかがすぐに確認できますし、それに沿ってふたたび筆を進めていけば、迷うことなくゴールまでたどりつけるというわけです。
表現がどうのこうのというレベルではなく、そもそもどういう流れで書けばよいのかすらわからなかった当時の自分にとってこの『レポートの組み立て方』もまたまさに地獄で仏ともいうべき救いの書でした。
オススメ文章読本その3 『文章力の基本』
次にご紹介したいのは『文章力の基本』(阿部紘久/日本実業出版社)です。
これは誰もが気づかずにやってしまうミスを例文と改善案という二段構成でわかりやすく説明した本です。文章を書く上で必要最低限のルールがまんべんなく、しかも簡潔にまとまっており、個人的には初心者向けであればこれ一冊で十分ではないかと思うくらいです。
内容を目次から拾うと次の通りです。
第一章 短く書く
第二章 自然な正しい表現で書く
第三章 言いたいことを明確にする
第四章 分かりやすく書く
第五章 簡潔に書く
第六章 共感を呼ぶように書く
第七章 表記とレイアウトにも心を配る
どの章も実践的で役に立つノウハウがつまっているのですが、個人的にもっとも勉強になったのは第二章の「自然な正しい表現で書く」です。
なかでも役に立ったのは、「文の後半と前半をかみ合せる」です。たとえばこんな例文が示されています。
(原文)この報道は明らかに、加害者だと疑われた人の人権が損なわれている。
(改善)この報道は明らかに、加害者だと疑われた人の人権を損なっている。
(原文)お客様から受ける質問には、正確な返答でなければならない。
(改善)お客様から受ける質問には、正確な返答をしなければならない。
ちょっとしたテニヲハの違いですが、文章上達のためにはこういった小さなミスも見逃さない目をもつことが大切です。書き終えた後、どうもしっくりこない表現だなと思っても、具体的にどこがおかしいのかが分からなければ改善のしようがないからです。
私もこの本で、テニヲハの使い方がまったくなっていないことを嫌というほど痛感させられました。
ネットにはテニヲハのおかしな文があふれています。日常的にそういう文に接していると、こちらの言語感覚もいつのまにかおかしくなってしまいます。それを防ぐため、私はいまも暇をみてはこの本を開いて自分の中のテニヲハ感覚を修整するようにしています。
オススメ文章読本 その4 『日本語てにをはルール』
次は『日本語てにをはルール』(石黒圭/すばる舎)です。
上でご紹介した『文章力の基本』でテニヲハの使い方がまるでなっていないことを思い知らされた私が、捲土重来をはかるべく買い求めたのがこの本です。
この本では、タイトル通り、とくに「テニヲハ」の使い方と文の組み立て方が重点的に解説してあります。
また『文章力の基本』同様、最初に例題を示し、それを読者に解いてもらってから答えを解説するというスタイルになっています。
以下はそうした例題のひとつです。
(1)太郎が 花子に 絵葉書を 送った。
(2)太郎は 花子に 絵葉書を 送った。
(3)絵葉書は 太郎が 花子に 送った。
(4)花子は 太郎が 絵葉書を 送った。
意味的にはほとんど同じですが、ニュアンスは微妙に違います。この本では、そのニュアンスの違いをテニヲハという視点からていねいに解説しています。
またこんな例題もあります。
(1)この電車の止まる駅は、鷺ノ宮、上石神井、田無、所沢に止まります。
(2)次のニュースは、パンダの赤ちゃんが産まれたニュースです。
(3)彼女が好きなのは猫です。でも、僕は犬です。
(4)この薬は、よく眠れますよ。
このなかに主語と述語の対応がずれていない文が一つだけあるのですが、それはどの文でしょうか、という設問です。
これは『文章力の基本』にもあった主ー述の対応のずれを問うものですが、いわゆる「うなぎ文」や「こんにゃく文」もまじっているので、ちょっと混乱してしまう人も多いかもしれません。ちなみに正解は(2)です。一定レベル以上、日本語文法に精通した人以外、とくになまかじりの初学者にとっては難問といっていい設問かと思います。
せっかくですので、もうひとつご紹介しておきましょう。
(1)僕は兄貴のように夜遅くまで起きていない。
(2)高価なダイヤモンドは直美には買えないだろう。
(3)高橋は優しくて気が利くと言っていた。
(4)窓のすぐそばの、メガネをかけている人が綾さんですよ。
(5)良夫は夏休みの宿題を全部やった。
このなかで二つの意味には解釈できない(あいまいな表現ではない)文はどれでしょう、という設問です。これは一つの文が二つの意味に解釈できる「あいまい文」に関する設問です。これも私にとってはけっこうな難問でした。
わかりやすい文章を書くためには、一文一文をわかりやすい表現にする必要があります。一方、すべてわかった上で書いている本人にしてみれば、どこがわかりにくいのか自分で気づくことは案外難しいものです。しかし、ということは逆にみれば、文章上達の鍵はわかりにくい表現を検出するセンサーを磨くことにある、ともいえるはずです。そうしたセンサーを磨く上でこの本は自信をもっておすすめできる一冊です。
オススメ文章読本 その5 『アウトライン記述法でA4文書がサクサクつくれる本』
最後にご紹介するのは、『アウトライン記述法でA4文書がサクサクつくれる本』(地蔵重樹/日本実業出版社)です。
これまで紹介した本はどちらかといえば「分かりやすい文」「正しい文」の作り方を教えるものでしたがこの本の場合、タイトルにあるように「アウトライン」、すなわち文章の骨組みをどうやって作るかというところに重点が置かれています。
このアウトライン記述法、具体的にどういう方法かといえば、まずタイトルと目次をつくり、その下に大見出し、中見出し、小見出しをぶらさげたアウトライン(骨組み)を作るーーあとはその骨組み(ここでは小見出し)に文章で肉付けしていけばオーケー、というものです。
ここで注目したいのは、文章は段落という短い文章をブロックのように積み上げた集合体であるという発想です。ブロックである以上、どんなに長い文章であっても、段落というブロックをひとつずつ作り、最後にそれらを接着すればよいということになります。
それまで文章というものは、書き出しから結びまでひとつながりになったものであり、それを途中一度も途切れることなく、いかに巧みにつないでいくかが文章術だと思い込んでいた私にとって、これはまさにコペルニクス的転換というべき逆転の発想でした。
そして他の本がそうであったようにこの本との出会いもまた私にとって目からウロコの体験となったのです。
完璧な文章をめざすあまり、筆がなかなか進まないという人は、以前の私と同じ間違った文章観にとらわれている可能性があります。そんな方は一度この本をひもといてみられてはいかがでしょうか。
ただし本書は、議事録や報告書等、おもに会社で使用する文書作成を念頭においているため、ブログ記事の作成指南書として期待する人にはちょっと物足りないかもしれません‥。
まとめ
以上、実際に効果があったと私が確信できた文章ノウハウ本をご紹介しました。
もちろん求めるものは人それぞれですし、そこから何を読み取るかも人によってさまざまです。なので万人に対して、とまでいう自信はありません。けれどすくなくともいま現在、作文に悩んでいて具体的な方法論を探している人に対してであれば、ここに挙げた本はみな読んでおいて絶対損はないと自信をもっていえるものばかりです。
思うように文章が書けずお悩みの方は、まずはどれか一冊、試しに手に取られてみてはいかがでしょうか?
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。