終身雇用制がすでに過去の遺物になったように、会社はいまやそこで一生勤め上げるものではなくなっています。少なくともそこにいれば定年まで安泰という場所ではもはやなくなりました。
そうしたなか、最近注目を集めているのが週末起業という選択肢です。
週末起業とは?
週末起業とは、平日は会社などに勤務しながら週末の空いた時間を利用して新たなビジネスを始めること、またそのビジネス自体のことをいいます。
この週末起業が注目されるようになった背景には、働き方をめぐる大きな変化があります。なかでも2018年、厚労省が副業を事実上解禁したことはそうした変化を促す直接的なきっかけとなりました。
それまで会社員であれば、副業は原則禁止というのがこれまでの常識でした。しかし長引く不景気による給与所得の頭打ちとそれに伴う多様な働き方を求める声の高まりを背景に、政府としてもそれを解禁せざるをえなくなったというのが実情でしょう。
そうして、にわかに注目を集めだしたのがこの週末起業というわけです。
ちなみに厳密にいうと副業と週末起業との間には若干の意味の違いがあります。
副業は、誰かに雇用されて仕事をすることです。契約にもよりますが、たいていの場合、報酬は労働時間に対して支払われます。
それに対して、週末起業は時間ではなく成果に対して支払われます。独立した事業主として仕事を請け負うのですから、これは当然です。
ここでは副業ではなくあくまで週末起業にしぼって話を進めたいと思います。
週末起業のアイディア例は?
まずは週末起業の具体的なアイディアから見ていきましょう。
ネットビジネス系
アフリエイト
商品を自分のブログで紹介することでマージンを得る仕組みです。パソコンとネット環境さえあれば自宅で簡単にできる上、在庫をもつ必要がないゼロリスクビジネスですので、週末起業にはまさにうってつけといえるでしょう。
ネットショップ
売る商品を持っている、あるいは調達するツテがあれば、ネットショップを使って直接販売するという手があります。商品力にもよりますが、うまくいけばかなりの利益を上げることができます。ただし発送が週末だけとなるとお客様に不便をかけることになりますので、週末限定発送を明示するなどなんらかの工夫が必要でしょう。
ドロップシッピング
ネットショップと似ていますが、それをさらにローリスクにしたのがドロップシッピングです。ドロップシッピングでは、自分で開設したネットショップで注文を受けるだけで、配送は契約先のメーカーや卸業者が行うことになります。
この在庫を持たないというところが、ドロップシッピング最大のメリットになります。
通常、ドロップシッピングサービスを提供するプラットフォームと契約することになりますが、知り合いに生産者がいれば、そこと組むことで同じ仕組みを構築することができます。生産者は生産に忙しく販売まで手が回らないことも多いので、もしそのような生産者を知っているのであれば連携を持ちかけてみるとよいでしょう。
クリエイティブ系
ライター
記事を書くことで報酬を得る仕事です。基本的にパソコンとネット環境があればできる仕事ですので、これも週末起業にはうってつけです。
依頼されて雑誌やウエブメディアなどに書くのが一般的ですが、最近では企業サイト向けに記事を提供する、いわゆるコンテンツマーケティング系の仕事も増えています。
クラウドワークスなどに募集案件がありますので、仕事の手づるがない人はまずはそこから始めるのがよいでしょう。
デザイナー
雑誌や広告などのデザインを請け負う仕事です。これも自宅でできる仕事ですので、週末起業として最適です。
案件はグラフィック系ばかりでなく、ファッション系、インダストリアル系など幅広い分野にまたがっていますので、そのうちどれか自分の得意な分野で勝負するとよいでしょう。
これも仕事はクラウドワークスなどを利用して探せます。
イラストレーター
イラストを描く仕事です。広告や雑誌など従来のメディアばかりでなく、ウエブメディアや動画、さらにメタバースなど活躍の場は年々広がっています。これも自宅でできまる仕事ですので、週末起業にはうってつけです。
カメラマン
カメラマンも週末起業と相性のよい仕事です。スマホの普及でいまや一億総カメラマンともいえるご時世ですが、それでもプロの技術への需要は依然として存在します。マネタイズの手法は、依頼撮影から写真素材サイトへの登録、さらに写真集の出版などさまざまありますが、まずは結婚式の撮影など身近な案件を請け負うところから始めるのがよいでしょう。
工芸系
手芸
手芸が得意な方であれば、週末起業家として作品を販売することができるでしょう。販売手法としては「ミンネ」や「メルカリ」などの通販プラットフォームを利用するのがもっとも簡単です。
木工
こちらも手芸同様「ミンネ」「メルカリ」でも販売可能ですが、より本格的にやりたい人は、自身のネットショップ を立ち上げ独自ブランドとして売り出すのもよいでしょう。
3Dプリンター
どんな立体モデルでも簡単に作れる3Dプリンター。この3Dプリンターを使って週末起業を始める人も増えています。その稼ぎ方は大きく分けて、「作品販売」「設計図販売」「制作代行」の三つ。3Dプリンター関連市場は年々広がっていますので、うまく時流に乗れば大きく成長できる可能性があります。
IT系
プログラマー
プログラミングは在宅でできることもあり、週末起業の候補として有望です。ただし大きな案件の場合、週末の限られた時間内ではこなせない問題もあります。限られた時間の中でできる仕事から始めるべきでしょう。
web制作
web制作も在宅でできるので、週末起業の候補になりえます。ただし、プログラミングと同様、週末という限られた時間では大きな案件を請け負うのは難しいかもしれません。最初はトップページデザインのみ、あるいはコーディングのみ、といった末端の仕事をできる範囲で請け負うのがよいでしょう。
ネット広告代行
ネット広告は営業上、必須であるにもかかわらず、仕組みが複雑だったりして実際やるとなるとなかなか面倒なもの。その意味でネット広告代行は、隠れたブルーオーシャン市場といえるでしょう。しかも作業は基本的に在宅でできますので週末起業にもうってつけです。とくに旅館やホテルなどが身近にある人は営業してみてはどうでしょうか?
物販系
せどり
せどりというのは、安く仕入れた商品を高く売って差益を得るビジネスのことです。「転売」と呼ばれることもありますが、その本質は商売の基本そのものにほかなりません。ルールと最低限の倫理さえ守れば立派なビジネスです。このせどりも、週末起業として手掛けやすい仕事です。
コンサル系
専門的な知識、ノウハウがあれば週末コンサルタントして起業することもできます。対象となる分野は経営からIT、マーケティング、さらに転職相談、ライフプラン、ダイエット、個人的な悩み相談まで多岐にわたります。最初のクライアントさえ獲得できれば、それをとっかかりに事業を拡大することができるでしょう。
講師
セミナーやウエビナーの講師も週末起業として手がけやすいビジネスです。これもコンサルタント同様、分野は多岐にわたりますので、人に教えられる知識、ノウハウ、経験があれば参入可能性は高いといえるでしょう。
教室サロン
講師と同じく教室やサロンなども週末起業として手がけやすいビジネスです。自宅に空きスペースがあればなお好都合でしょう。料理や書道、生花、英会話、手芸など提供するサービスもさまざまなものが考えられます。
投資系
提供できる特技や商品がない場合、また週末起業の最大の目的がお金儲けにあるのであれば、ある意味、一番手取り早いのが投資です。
投資には、以下のようなものがあります。まずはどれかひとつから始めるのがよいでしょう。
不動産投資
株式投資
FX投資
仮想通貨
その他
その他、週末起業ビジネスになりうる仕事には次のようなものもあります。
YouTuber
YouTube上で動画を配信し、その広告料で稼ぐ仕事です。
ClubT
ClubTは、Tシャツやマグカップなどにオリジナルデザインを施した商品を販売できるサイトです。出品者は在庫を持たず、デザインを提供するだけですのでゼロリスクではじめられます。
週末起業のメリット
週末起業には次のようなメリットがあります。
リスクが低い
ひとつめのメリットはリスクが低いことです。失敗しても復帰できる本業があるので、たとえ失敗しても収入が断たれる心配がないからです。もちろん多額な負債を抱えてしまう危険がないとはいえませんが、週末起業にかぎればその可能性は低いといえるでしょう。そもそも週末起業においては身の丈以上の借り入れはすべきではありませんし、そうする必要もありません。
新たなキャリアがつくれる
週末起業は新たなキャリアを切り開くチャンスとなります。というのも、成功すれば、そのまま本業を辞めて独立する道が開けるからです。またたとえ失敗したとしてもそこで得た知見やノウハウ、経験は貴重な財産となり、転職の際もアピールポイントにできます。
能力アップが図れる
週末起業といえど起業に変わりはありません。小規模とはいえそれを自ら企画し、実行することは、それ自体貴重な学びとなります。そのため、たとえ失敗したとしても、その経験を将来に活かすことができますし、場合によっては本業においても活躍の場がさらに広がる可能性があります。
デメリット
週末起業にはデメリットもあります。
休日がなくなる
休日に仕事をするのですから、当然、休日はなくなります。つまり一週間ぶっ続けで仕事漬けの日々を過ごさなければならないということです。モチベーションが高いうちはたいした問題ではないかもしれませんが、長く続けているとそれなりに問題になってくる可能性があります。それを避けるには、日頃から健康管理やストレス解消を心がけたいものです。また家族がいれば、家族サービスに割く時間がなくなるわけですので、事前に家族の理解を取り付けておく必要があるでしょう。
本業に支障が出る
上の休日がなくなるとも関係する話ですが、十分な休みもとらず仕事を続けていると体調を崩したり、ストレスが溜まったりすることがあります。そうなると週末企業ばかりでなく本業にもさしさわりが出る可能性がありますので、そうならないよう体調管理、ストレス管理は日頃から心がけておく必要があります。
税務申告が必要
年間所得が20万円を超えると確定申告が必要になります。最初は慣れないかもしれませんが、起業に税務申告は避けて通れないものです。規模が小さければ、それほど煩雑な手続きではありませんので、これも起業の勉強のひとつだと思って前向きに取り組んでみてください。
失業保険がもらえない
仮に本業の会社が倒産したりそこでの仕事を失職したりした場合、週末起業をしていると失業保険がもらえなくなる可能性があります。失業保険は仕事がしたくても仕事がない人に支給されるものだからです。といっても週末起業はそうした万一の失業に備える意味もあるわけで、あまり気にする必要はないのかもしれません。それでもいちおうこのことは心の隅に留めておくとよいでしょう。
成功のコツ
次に週末起業を成功させるコツについてまとめてみます。
個人的にいえば週末起業は好きなことをやるべきですし、基本的にそれでかまわないと思います。それこそが週末起業の醍醐味だからです。
とはいえ、好きだからやるというのは必要条件ではあるものの十分条件ではありません。好きだからやる、だけでは成功する確率はかなり低いといわざるをえないでしょう。
忘れてならないのは、週末起業も起業に変わりはないということです。起業がそうであるように週末起業においてもそれなりに周到な準備と計画は欠かせません。
週末起業を始める際に必要な準備はおおよそ次の通りです。
1、ビジネスアイディアの発見
2、事業計画
1、ビジネスアイディアの発見
まずはどんなビジネスをするのかを決める必要があります。そして、週末起業においてはこれがもっとも重要なポイントとなります。成功するかしないかは、ほぼその選択の是非にかかっているからです。
間違ったビジネスを選んでしまった場合、必ず失敗するとまではいいませんが、仮にうまく行ったとしても労多くして得るところは少ないでしょう。
では、どんなビジネスを狙うべきなのでしょうか?
週末起業の場合、それはひとつしかありません。
ニッチ市場です。
ニッチ市場とは、大手企業が手を出さない、あるいは出せない隙間市場のことです。
なぜ隙間市場を狙うべきなのでしょうか?
そもそも週末起業はスモールビジネスです。スモールビジネスというのは、いわばゲリラ戦です。
ゲリラ戦で重要なのは、正規軍のスキを突くことです。
一方、正規軍である大企業は小回りが利かないため、そこが弱点になります。そこが隙間市場です。
すなわち、ゲリラ兵である週末起業家は、小回りの利かない大企業が入り込めない隙間市場ーーニッチ市場で戦うべきなのです。
もうひとつ重要なポイントがあります。
それは、新しい市場は狙わないということです。
起業したいという人のなかには、独創的な商品やサービスのアイディアがあり、それを世に提供したいと考えている人も少なくありません。それはそれで素晴らしいことですし、もしそれが世に出た場合、画期的な商品としてバカ売れする可能性もないとはいえません。
しかし、少なくとも週末起業にかぎれば独創的なーーつまり今まで誰もみたことがなかったーー商品で勝負するのは避けるべきです。
なぜでしょうか?
売れるまでの宣伝コストがかかりすぎるからです。
市場というのは案外保守的なものです。
マーケティングの世界には「知らないものは欲しくない」という格言があります。消費者というのは、知らない商品に対しては欲しいと思わないし、それどころか警戒さえするのが普通だという意味です。これは新しい商品を売り込むのがいかに難しいかを表した言葉です。
ここからもわかるように、これまでなかったような独創的で新しい商品を売り込むには大きなハードルがあります。消費者を説得する上で巨額な宣伝費がかかるからです。
したがって、すくなくとも週末起業においては新しい市場は狙わない方が賢明といえるでしょう。
しかし、新しい市場を狙わないで、しかもニッチ市場を狙うとなったなら一体どこを狙えばよいのでしょうか?
それは既存市場のニッチ市場です。
既存市場という大きなドジョウのいることがはっきりしている場所で、二匹目のドジョウを狙うのです。
一匹の魚がいるところにはたいてい二匹以上いるものです。その二匹目、三匹目の魚を狙うのです。
またそういうところには、それ以外の小魚もたくさんいるはずです。ニッチ市場というのはそれら二匹目のドジョウや小魚のことです。
大企業の網にかからないそれらの小魚を頂戴するのです。
事業計画
ビジネスアイディアが発見できたら、次はそれを事業計画書にまとめてみましょう。金融機関などから資金調達をしないのであれば、本格的なものでなくてもかまいません。アイディアを整理する上でもこれは大切な作業です。ぜひやっておきましょう。
なお事業計画書に盛り込むべき内容は次の通りです。
事業内容
どんな商品・サービスを誰に提供するのかを明確にします。
市場環境
その商品・サービスにはどのくらいの需要が見込めるのかを明確にします。また競合状況なども明らかにします。
強み
上記市場環境の中で自社の強みがどこにあるのか明確にします。
販売戦略
商品・サービスをどうやって宣伝し、販売していくのかを明確にします。
その他
目標設定
同時に目標も設定しておきましょう。目標には長期目標と短期目標がありますが、それぞれいつまでにどのくらいの成果を上げるのかを明確にします。そうすることで進むべき道筋がより明瞭にみえてきます。
マーケティング
事業を行うにあたってマーケティングはきわめて重要です。そのため、マーケティング戦略については、事業計画とは別により詳細なところまで詰めておくことをオススメします。その際、マーケティングでいう4P(Products=商品、Price=価格、Prromotion=宣伝、Place=流通)という視点から考えるとよいでしょう。
資金手当て
起業には当然、資金が必要です。ですが、週末起業のために金融機関から新たに借り入れをするのはオススメしません。できるだけ自己資金のみではじめるべきです。そうでないと万が一失敗した場合、借金という大きなリスクを背負うことになってしまうからです。また手持ちの資金が枯渇した場合、その時点でいさぎよく撤退するようあらかじめ決めておいた方がよいでしょう。
家族の理解を得る
家庭がある方なら家族の理解を得ることも必要です。金銭面でのリスクはあまりないとはいえ、週末企業であるからには家族との時間が少なくなることは間違いないからです。もし反対されたなら断念するか、家族を説得するかのどちらかしかないでしょう。
撤退も柔軟に考える
一般に起業の成功確率はせいぜい10%ほど、それも20年後に生き残っている確率は1%以下といわれています。
もし計画通りに行かず、しかも見込みがないと分かったなら傷口が広がらないうちにすっぱり辞めて撤退する柔軟性も必要です。
週末起業はあくまで将来の本格的な起業に向けた実験的、予行演習的なものと割り切りましょう。
まとめ
・週末起業のコツはまず「小さく始める」ことです。既存企業が入り込めないような隙間市場で自分ができる仕事をできる範囲で小さく請け負いましょう。
・なにより好きなこと、ワクワクすることをやるべきです。好きでないと長続きしないからです。よくいわれますが「商いは飽きない」です。これを心に留めておきましょう。
・同時に自分自身が楽しみながらやることも大切です。人はハッピーなオーラに引き寄せられるものです。いやいやながらやってる人のところに客は寄り付きません。楽しくやっていれば、客は自然と集まってくるものです。
・早めに収入が得られるようにしましょう。成果が見えないまま努力し続けるのは財政的にはもちろん、心理的にもつらいものです。逆に小額でも確実に収入が入ると俄然やる気が出てきて、もっと頑張ろうという気になるものです。
・メンターも大切です。メンターとは心の支えとなってくれる人のことです。一人でビジネスをやっているとさまざまな難題に遭遇しますが、その都度、心理的または実務的にサポートしてくれる人がいると乗り越えやすくなります。
・その意味で、起業セミナーなどに参加するのも一法です。セミナー内容自体もさることながら、起業仲間と知り合えるというメリットがあるからです。ただしこの手のセミナーには詐欺的なものも少なくありませんので、参加を決める際は十分注意しましょう。
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。