まるで書けなかった私が書けるようになったそのわけは?
書いていると横道にそれてしまうーー。何を言っているのか自分でもわからなくなるーー。尻切れトンボになるーー。書くことに対して、そんな悩みを抱えている人は少なくありません。
などというといかにも人ごとのようですが、じつは私も作文は昔から大の苦手でした。正直いうと今もけっして得意なわけではありません。そんな私がなぜよりにもよって文章作成のための方法論を編み出せたのか? そこにはわけがあります。
まずはそこからお話しましょう。
私が子供の頃から作文が苦手だったことはいま述べた通りです。ところが、どういうわけか、私が社会人になってからもぐりこんだのはなんとマスコミ業界でした。しかもそこで何食わぬ顔でライターを名乗っていたのですから、人の運命というのはどこでどう転ぶかわからないものです。
とはいえ、当たり前ですが、ライターの名刺を作ったからといって、その日から突然、文章力が爆上がりして、万事めでたしめでたしとなるわけではありません。当然ながら書いては消し、書いては消しを繰り返しつつ、それこそ文字通り苦吟しながら日々原稿用紙と格闘していたのを思い出します。バブル時代という特殊な状況だったことを差し引いても、あれでよく食えていたなと驚くというよりあきれかえってしまいます。
それに加えて、当時の私にはもうひとつ腑に落ちないことがありました。それはそんな私でもなぜかスラスラ書けるとき「も」あるということです。いや「気持ちが乗る乗らない」といった気分的な話ではありません。気分とはまったく無関係にそれまでと打って変わって筆が自然に動くときがあるのです。
なぜ筆が動くとき動かない時があるのか?
なぜ筆が動くときと動かないときがあるのでしょうか? 文才というのは、ある日突然目覚めたり、眠ったりするものなのでしょうか? いいや、そんなはずがありません。持って生まれた才能というのはそんな気まぐれなものではないはずです。
長年不思議に思っていた私はある日、そこにひとつの共通項を発見しました。それは、書けるときは例外なく「問いが明確になっている」のに対し、書けないときは「問いが明確になっていない」ということです。
なぜ「問い」が明確になっていないと書けないのでしょうか?
ここには文章というものの本質的な部分が関係してきます。
文章とは問いに対する答えである
そもそも、文章というのは突き詰めていえば「問い」に対する「答え」です。なんらかの疑問がそこにあり、その疑問に対して答えを提示するというのが文章の基本的な構造です。
そのことはコミュニケーションの原型が、たとえば原始人同士の「あれはなんだ?」「イノシシだ!」といった言葉による問いかけとそれに対する応答であること、さらにそのコミュニケーションの発展形が文章であることに思いを馳せられる人であればご納得いただけるのではないでしょうか?
そのため明確な文章を書くためには、その前提条件としてまず問いが明確である必要があります。なぜなら問いが明確でなければ明確な答えは出せないし、明確な答えが出せなければ明確な文章は書けないからです。
そこまで思い至った私の頭のなかにパッと光が灯りました。
ーーということは『問い』さえ明確にできれば、文章を書くのはそう難しくないのでは?
ーー文章が問いと答えという基本構造からできているのであれば、それを一定の法則のもとに展開することで文章として組み立て直すことも可能なのでは?
こうした一連のひらめきから導き出されたのが、ここにご紹介するたかはし式三行作文術です。
たかはし式三行作文術とは?
たかはし式三行作文術というのは、上でも述べたように長年にわたるライターとしての生活の中で筆者が考案した独自の文章作成術です。
その最大の特徴は、たった三行からなる「型」にあてはめるだけで明確なアウトラインが導き出せることにあります。
アウトラインというのは文章の柱となる骨組みのことです。具体的には、書き出しから本文、そしてまとめに至るまでの一連の流れを短い言葉で書き記したものです。
このアウトラインの作成は文章を書く上できわめて重要です。なぜならアウトラインもなしに文章を書くのは、地図もなしに目的地にたどり着こうとするようなものだからです。それは不可能とまではいいませんが、すくなくとも経験の浅い人は避けた方が無難でしょう。
たかはし式三行作文術は、指示にしたがって入力するだけで明快なアウトラインを簡単に導き出してくれます。さらにそこへ枝葉となる表現を肉付けしていくことで筋道の通った、わかりやすい、しかも個性的な文章が誰でも簡単に書けるようになります。
対象とする人
このたかはし式三行作文術が対象にしているのは主に次のような人たちです。
1、まったく書けない人
2、書ける時と書けない時でムラがある人
3、文章の組み立てにもっと意識的になりたい人
また次のような人たちは対象外となっています。
1、文章の表現力を高めたい人
2、名文を書きたい人
3、小説や詩、手紙文など文学的な文章を学びたい人
なぜ後者を対象外とし、前者に対象を絞ったのかについては冒頭のいきさつをお読みになった方であればご理解いただけるかと思います。そうです。理由はこの作文方程式という方法論自体、「書けない」私が「書けない人」のために作ったものだからです
書けなかったからこそ発見できた方法論
ここで、みなさんのなかには「書けない」私になぜ「書くための方法論」が作れたのか、と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。
先に答えを言っておくと、「名選手必ずしも名コーチにあらず」ということです。むしろ私からすれば「下手な選手でないと名コーチにはなれない」といいたいくらいです。
これに関連して私がいつも思うのは、文章の書き方を教える本は世の中にたくさんあるのに、「書けない」人の役に立つものは驚くほど少ないということです。
もちろん「書けない人」、つまり初心者向けを謳った文章ノウハウ本もあるにはあります。けれど私のように本当に「書けない人」からするとそれらはどれも的外れなのです。書けない人の悩みがわかっていないというか、ツボにはまっていないというか‥「そこじゃない!」、という違和感がどうしても拭えないのです。
書ける人にはなぜ書けないのかわからない
なぜ的外れになってしまうのでしょうか? それはこうした本を書く人のほとんどが「書ける人」だからだと私は考えています。
物心つく頃からそれなりに書けていた人は、文章というものは書けて当然で、話したり、歩いたりするのと同じくらい自然で当たり前の能力と思っている節があります。そんな人にしてみれば、どうやって話すのかとか、どうやって歩くのか、と聞かれても面食らってしまうことでしょう。
要するに「書ける人」には「書けない人」の悩みはわからないのです。書けないという状態がどういうものなのか理解できないし、想像もできないのです。
「書ける人」が書いた文章ノウハウ本が「書けない人」には役に立たず、的外れになってしまう理由もそこにあります。
だからこそ、「書けない私」が、「書けない人」の目線で、(私を含む)「書けない人」のために、本当に「書けるようになる方法論」を作ろうと思い立ったのです。
書けない人はどこでつまづいている?
そもそも、書けない人は一体どこでつまづいているのでしょうか?
じつのところ、彼ら彼女らは、どうすればもっと気の効いた言い回しにできるかで悩んでいるわけではありません。文章をどう組み立てたらよいのか、つまりどんな言葉をどんな順序で並べていけばよいのか、という始めの一歩、いやそれ以前の段階でつまづいているのです。
さきほど地図をたとえに出しましたが、それでいえば車を運転する人が、地図、もしくはカーナビがないため道に迷っているような状態です。すなわち、文章の地図を示すアウトラインがないため、何をどう書けばよいのか途方にくれているということです。
このたかはし式三行作文術がフォーカスしているのは、まさにこのアウトラインです。その最大の目的もこのアウトラインという文章の地図をあなたの前に提示することにあります。
三行作文術は文章の道のりを案内するカーナビ
地図、もしくはカーナビさえあれば道に迷わないように、たかはし式三行作文術があれば文章作成という道のりで方角を見失うことがなくなります。またそれを指針とすることで、横道にそれることなく、論理の明快なわかりやすい文章を、最後までスラスラと書けるようになります。さらにこれを十分理解して使いこなせるようになった暁には、これに頼ることなく、自分だけの力で思い通りの文章を自由自在に紡ぎ出せるようになるはずです。
もちろん、それがどこまで実現できるかは人にもよりますのでフタを開けてみないとわかりません。けれど少なくとも私自身についていえば、この方法論を発見して以来、あれほど苦吟の連続だったライティング作業が格段に楽になったことは間違いありません。
一人でも多くの人が、このたかはし式三行作文術というカーナビならぬ「文章ナビ」を使いこなして、文章作成という険しくも楽しい道のりを少しでも快適にたどれるようになることを願う一方で、今これをお読みのあなたもまたきっとそうなるはずと心の奥底でひそかに確信している私がいることも申し添えておきます。
たかはし式三行作文術テンプレートの使い方
以下、たかはし式三行作文術テンプレートの使い方をご説明します。
ここでは【初級編】論説文用テンプレートを取り上げます。
基本的な作業の流れ
作業は次のように3つの段階からなります。
1、公式文の作成
2、アウトラインの作成
3、肉付け
以下、順に説明していきます。
公式文の作成
まずは公式文を作成します。
公式文というのは
「AはBである」
「なぜならCだから」
「ということはDだよね」
という三行からなるシンプルな文章です。
ここで作成した公式文がこれからおこなうすべての作業の土台になります。
それでは早速、テンプレートを使って公式文を作成してみましょう。
問いの入力
はじめに問いを入力します。
ここであなたが問題にしたい問いは何ですか? 何かを書きたい、というからには明らかにしたい何かがあるはずです。またそうである以上、そこには明らかにすべき何らかの疑問があるはずです。
その疑問がここでの問いになります。それを入力してください
例文でいえば
喜多方でおすすめのラーメンといえば?
猫をじっと見つめるのはYES、NO?
になります。
その問いを「Xとは何か?」「Xの真偽は?」「Xをするにはどうすればよいのか?」など、文として明確に意味が通るような形にして入力します。
問いが複数あって、どれを選んだらよいのか判らない場合、一番重要な問いを入力してください。一番重要な問いというのは、文全体のテーマに関わる大きな問いです。それなしには文章が成り立たないような、全体を貫く柱となる問いです。
どれが大きな問いでどれが小さな問いなのかは、慣れないうちはなかなか判別できないかもしれません。そんな時は、どれでもよいのでまずはとにかく欄を埋めてみてください。それが適切か否かは公式を埋めていく過程でみえてきます。
プロセスを進めていく過程でどうも適切でないと感じた場合、別の問いを入れて最初からやり直してください。
なお「なぜXなのか?」「Xの理由は何か?」のように、WHY(なぜ)による問いの場合、公式が若干変わります。WHYによる問いから始まる場合、「論説文WHY文用テンプレート」をお使いください。
答えの入力
次は答えの入力です。
これはそれほど難しくないはずです。問いが明確になっていれば普通、答えも明確になっているからです。というより答えがわからないテーマについて書くことなどそもそもありえないでしょう。
注意していただきたいのは、ここでいう答えというのは問いに対する実際の解決策ではなく、あなたの意見だということです。
そのため、実際の解決策がない問いに対する答えは「解決策はない」となります。この場合、解決策がないことを前提に、どうすればよいのか、などと論じることになります。
※正確にいうと、この場合、「どうすればよいのか」が文章全体の問いになるはずです。つまり、この「どうすればよいか」が「大きな問い」に相当し、解決策についてのそれは「小さな問い」に相当します。
なお例文では
ラーメン『馬賊』だ
が入っています。
理由を入力する
文章の基本形は、問いと答えです。したがってそのふたつがあればいちおう文章としては成り立ちます。実際、それで十分な場合もあります。しかし、通常、それだけでは不十分です。なぜそのような答えになったのか、読者はその理由を知りたいと思うのが普通だからです。
そこで求められるのがこの「理由」の部分です。ここではなぜそのような答えになるのか、その理由を簡潔に記入します。
ひとことで言えない場合も多いかと思いますが、ここでは抽象的・総論的な言葉でかまいませんので「~だから」とできるだけシンプルな形で記入してください。そうでないと、あとでアウトラインを組み立てる際、悩んでしまうことになります。
ここでは
比内地鶏を長時間煮込んで作ったスープが絶妙。癖になる味。全国から客がやってくる
と複数の理由をそのまま並べています。
なお理由が複数ある場合、「理由は以下の通りだ」で始め、それらを箇条書きで列挙する形でもかまいません。
たとえば、
理由は以下の通りだ。
1、 スープは比内地鶏を長時間煮込んで作った鶏ガラ系
2、一度食べるとやみつきになる絶妙な味
3、評判の味を求めて全国からラーメン通が集まってくる
といった形です。
まとめを考える
次はまとめです。
前段階までで文章としてはほぼ完成です。文章として言うべきことは基本的に言い尽くしてあるからです。ただし、読む側からするとそれでもやはり若干物足りないはずです。
というのも、「要するにそれはどういうことだ?」とか「言いたいことは判った。で、君はそれに対してどう思っているんだ?」といった新たな疑問が浮かび上がってくるからです。そこで補足的に必要になるのが、まとめです。
ここでは「問い」→「答え」→「理由」というそれまでの流れを受けて、「ということは~」もしくは「だから~」という形でまとめとなる文を入力してください。
まとめに入る内容としては、一般に「結論の再確認」「課題の明確化」「メリットの提示」「補足」「感想 」「行動促進」「願望」などがあります。
例文では
行列ができているが並ぶだけの価値はある
とそのメリットを提示するとともに読者の行動を促す内容になっています。
以上で方程式文は完成です。
アウトラインを作成する
アウトラインを書き出す
さて指示通りに入力が終わったら最後に「アウトラインを書き出す」を押してください。
そうするとアウトラインが表示されます。
これでいったん作業は完了です。
お疲れ様でした。
肉付けする
ここであらためてアウトラインを読んでみてください。
いかがでしょうか?
ぶつぎりで表現もこなれていないかもしれませんが、いわんとすることの6割~8割は伝わる文章になっているのではないでしょうか?
あとはそれを10割に近づけるだけです。そしてそのための作業が「肉付け」になります。
肉付けというのは、言葉を補ったり、別の言葉に変えたりして表現をブラッシュアップすることです。
どう肉付けするかは自由です。よりわかりやすい表現になるよう各自工夫しながら推敲を重ねてみてください。
なおここでは具体的な肉付け方法については触れません。文章の表現力を高めるノウハウ本はすでに数え切れないほど出版されていますし、ネット上にも同様のサイトがたくさんあるからです。
代わりに、ここでは肉付けする際のヒントだけ記しておきます。
肉付けの方法には大きく分けて次の二通りがあります。
1、表現を膨らませる
言葉を補い、よりわかりやすい表現に直します。とくに意味が伝わりにくかったり、誤解を招くような部分は言葉を尽くしてきちんと説明します。
ただし文章はシンプルイズベストです。表現を手直しした結果、かえって短い文になったとしても簡潔にしてわかりやすいのであれば、それがベストです。無理に膨らませる必要はありません。
2、情報を追加する
肉付けする一番簡単な方法は情報を追加することです。それらを必要に応じて追加してください。ただしいうまでもありませんが、追加する情報は論旨に沿ったものでなくてはなりません。たんに字数を膨らませる目的で無関係な情報を混ぜ込んでしまっては、論旨がわかりにくくなってしまいます。
また論旨に沿った情報であれば、それにふさわしい場所が必ずあるはずです。全体の論旨と前後の流れを確認しながら、ふさわしい箇所に追加してください。逆にふさわしい場所が見つからないのは、それが不要な情報である証拠です。そのような情報を無理に入れ込む必要はありません。
あとは練習あるのみ!
ここでのテンプレートの説明は、以上です。
この『たかはし式三行作文術』テンプレートを実際にお試しになりたい方は以下のリンク先からテンプレート+マニュアル一式をご購入ください。
初級編・上級編・統合版(初級編+上級編のセット)の3つがあります。
→https://mirainium.theshop.jp/
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。