ここでブランディングについて考察してみましょう。
まずブランディングとは一体何を意味するのでしょうか。 ブランディングの定義はいくつもありますが、多くのひとはそれらを読んでも抽象的すぎてよくわからないというのが正直なところではないでしょうか。むしろかえってわからなくなってしまったという人もすくなくないかもしれません。実際、わたしもそうでした。
そこで例によってばっさりといきましょう。ここではブランディングとは「顔が見えて対話できること」と定義します
販売とはコミュニケーションである
ここで思い出していただきたいのは、販売というのは、もともとコミュニケーションの一形態であるということです。
中近東あたりの市場での丁々発止のやりとりを想像していただけばわかるように、そこにあるのは売り手と買い手との間でかわされる濃密な対話です。また商品を貨幣と交換するというその取引行為自体、ひとつのコミュニケーションとみなすことができるでしょう。
ここで重要なのは、コミュニケーションは一人ではできないものであり、相手がいてはじめて成立するものであるということです。こちらから呼びかけても相手が答えてくれないのは、コミュニケーションではありません。
ひとつ例を出してみます。みなさんは自動販売機で何か、たとえば缶ジュースを買った時に、どことなく物足りない感覚を覚えたことはないでしょうか?
え、ない?
困りましたね、それじゃあ話が進まないのですが…。
まあいいでしょう。 みなさんはどうあれ、私は自動販売機ではなるべくモノを買わないようにしています。
なぜって? なんとなく味気ないからです。なぜ味気ないのか、わたしはそのことをずっと考えてきましが、その理由が最近やっとわかりました。
それは顔が見えないからです。売り手の顔が見えないから、まるで壁に向かって独り言を言っているような気分になってしまうんです。つまりその手応えのなさ、むなしさが、そうした味気なさの正体であり、そのことがわたしを自動販売機でモノを買うことから遠ざけていたんですね。いいかえれば自動販売機を味気ないと感じたのは、そこに対話の相手をみつけられなかったからともいえるでしょう。
またこのように顔が見えるということは、対話の前提をなすものとしてきわめて重要です。
人は、相手の顔が見えないと不安を覚え、なんとなく落ち着かない気分になるものです。逆に顔が見えると人は安心し、警戒感を解きます。 それはおそらく森の中で狩猟採集生活を行っていた原始時代の祖先から受け継いだ本能なのかもしれません。
こうしてみると、昔ながらの店で店員さんとおしゃべりをしながら買い物をすることを懐かしむ人が多いのは、案外そのへんと無関係ではないように思います。 さらにいえば、商品の顔であるブランドが重要とされるのも、深層心理学的にそのあたりが関係しているのかもしれませんね。
販売の理想型は対面販売
さて、ここまでの話で、販売の理想型は顔の見える対面販売であることがわかりました。
では、ホームページについては、どう考えたらよいのでしょうか?
いうまでもなくホームページは自動販売機と同じく顔が見えない非対面型の販売形態です。
しかし、 さきほど述べたように人間の脳というのは、どうやらあらゆるものを対面型として認識する構造になっているようです。実際、ホームページを訪れたユーザーもじつは心の奥でこう語りかけています。
「私の欲しいものはここにありますか?」。
こう言って見えない相手の顔を懸命にイメージしながらユーザーはホームページと双方向の対話を試みようとしているのです。
したがって、これに対し、
「はい、あなたにぴったりなのがこれです。どうぞ!」
と即座に反応できるかどうかが、そのホームページがユーザーに受け入れてもらえるかどうかの最初の運命の分かれ道になるのです。
重要なのは顔を見せること
それではどのようにしたら、ホームページを訪れたユーザーに対し、それが対面販売であるかのように認識してもらえるのでしょうか。
ここで参考になるのが、ダイレクトメールなどの通信販売です。通信販売はホームページと同様、顔の見えない非対面型の販売方法ですが、じつはその不利を早くから認識していた通信販売会社の担当者は、これを対面販売に近づけるよう努力を重ねてきたという歴史があります。
もっともネットのない時代のこと、買い手の前に直接顔を出すことは物理的にも不可能でしたので、彼らの努力はもっぱらその表現の工夫に向けられました。その結果、かれらは買い手に対し、それがあたかも対面販売であるかのような感覚を起こさせる表現を編み出したのです。そして驚くべきことは、そこで得られた「売る」ためのノウハウの多くが現在のネットショップにも十分応用可能なものであるということです。
この通信販売のノウハウについては、この後少しずつ紹介していきますので、ここでは基本的なふたつのポイントだけ指摘しておきます。
そのひとつは顔を見せることです。顔を見せるもっとも手っ取り早い方法としては、ウエブカメラを使い、ホームページ上に販売員の姿を映し出しておくことが考えられます。もちろんそれが理想ですが、とはいえ24時間、ウエブカメラの前に付きっきりというわけにもいかないのが実情でしょう。
そこでぜひやっていただきたいのが、店主の顔写真を掲載することです。それだけでも、買い手にとっては相手の顔が見えないという不安から解放されますし、相手がどういう人なのかイメージしやすくなるため、直接顔を合わせられないホームページであっても対面販売に近い感覚を出すことができるようになります。
ふたつめは、対話できることです。これも一番よいのは、会話付きのウエブカメラを接続し、常時会話が可能な状態にしておくことですが、次善の策としては、チャットコーナーを設け、ユーザーがいつでも気軽に質問できるようにしておくことなどが考えられます。このあたりは技術革新の度合いをみながら、導入できるものはなるべく早めに導入するという姿勢が必要でしょう。
また、こうした新技術に頼らない方法もあります。たとえば、個人に対して語りかけるコピーライティングなどがそのひとつです。
このあたりについては、この後の「欲求喚起の技術」「信頼付与」あたりでくわしく解説したいと思います。
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。