ペルソナ分析とは?
・ペルソナ分析とは、ペルソナ と呼ばれる「典型的なユーザー像」をもとに、より適切なマーケティング戦略を立てるための手法
・「適切な戦略が立てられる」「社内の意思決定が早くなる」「ブランド戦略に統一感が出せる」といったメリットがある
・ペルソナを設定する際は、インサイトを中心にしたストーリーを描くことが大切
はじめに
市場がますます見えにくくなる中、マーケッターには今まで以上にターゲットへの深い洞察力が求められるようになっています。
そんな中、ターゲットをより深く洞察するためのツールとして近年、注目を集めているのがペルソナ分析です。今回は、このペルソナ分析について説明します。
この記事を読んだあとは、ペルソナ分析について一通りの知識が得られるととともに実際のマーケティング施策におけるその応用についても理解を深めることができるでしょう。
ペルソナとは?
ペルソナというのは、もともと演劇などで使う仮面を意味する言葉です。それを心理学者のカール・グスタフ・ユングが、人間が社会で演じる役割(仮面)を指すものとして用いたのをきっかけに広く使われるようになりました。
マーケティング用語としてのペルソナもそれを転用したもので、通常「典型的なユーザー像」といった意味で使われています。
ペルソナ分析とは、この典型的なユーザー像をもとに、そこに隠された真のニーズや動機を探ることで企業戦略に活かそうとするマーケティング手法です。
ペルソナとターゲットとの違いは?
よく似た概念にターゲットがありますが、両者は微妙に異なります。ターゲットは、共通する属性をもつ集団を意味するのに対し、ペルソナはそれらの属性を代表する個人を意味します。イメージとしていえば、ターゲットという同じ属性をもつ同心円的な集団の中心に位置する人物ーーそれがペルソナです。
別の視点から両者を比べてみます。ターゲットではデータ分析上、通常「平均値」が重視されます。しかし、たとえば男女が半々からなるターゲットの場合、その平均値をとって典型的なユーザー像とすると男性でも女性でもないトランスジェンダーが理想的なユーザーということになってしまいます。しかし当たり前ですがそれでは意味がありません。
それに対し、ペルソナが重視するのは「代表値」です。そうすることで、現実に即したより具体的なユーザー像を描くことができるようになるのです。
あるいはこう考えるともっとわかりやすいかもしれません。物騒なたとえで恐縮ですが、マーケティングを戦争だと思ってください。この場合、ターゲットを知るというのは、どの場所に敵が多く存在しているかを知ることに相当します。そしてその場所が特定できたら、あとはそこに砲弾を集中的に投下するだけということになります。
一方、ペルソナを知るというのは、敵の弱点を知ることに相当します。そしてその弱点がわかれば、そこを狙ったより高性能な兵器の開発につなげることができます。
すなわち、ターゲット分析は的を定めるため、またペルソナ分析は的を射る矢をより高性能にするためのものであるといえるでしょう。
ペルソナ分析のメリットは?
ペルソナを設定することには次のようなメリットがあります。
ペルソナを通してインサイトが発見できる
第一のメリットは、インサイトが発見できることです。
インサイトというのは、なぜその商品を買ったのかという消費者の心の中に潜む動機や本音のことです。たとえていえば、そこを押すと買う気が刺激される心理的なツボのようなものです。
なぜインサイトが発見しやすいのか、といえばペルソナが明確になるとターゲットが抱くニーズ、およびその背景がより具体的に見えてくるからです。そして、具体的な背景が見えてくるとその裏にあるインサイトも見えるようになります。
ペルソナをもとに適切な戦略が立てられる
インサイトが見えてくると、それをもとにより適切な戦略が立てられるようになります。それさえわかれば、あとはそれをどうやって刺激するかという方法論の問題だけになるからです。そして方法論はアイディアと工夫次第で、いくらでも生み出すことが可能です。その中からもっとも効果的で現実に適用しやすいものを選べば、それが適切な戦略になります。
ペルソナがあると社内の意思決定が早くなる
もうひとつのメリットは社内の意思決定が早くなることです。理由はターゲット像が共有できるからです。
ターゲット像が不明確だと担当者や部署によってその捉え方にバラツキが出てしまいます。また戦略を策定したり、実行する上でも誤解やズレが生じてしまいます。その結果、その都度、調整が必要になり、余計な手間と時間がかかってしまいます。
しかし明確なターゲット像が会社全体に共有されていれば、そのような無駄を省くことができます。そしてもちろん、その分、会社全体としての意思決定も早くなります。
ブランド戦略に統一感が出せる
ペルソナを策定することは、ブランド戦略を統一的に遂行する上でもメリットがあります。
上述したように、ターゲット像が共有されていないと人によって、また部署によって捉え方にバラツキが出てしまいます。とりわけ問題になるのはその結果、宣伝広告や窓口、営業マンといったコンタクトポイントごとにユーザーに与えるイメージがちぐはぐになってしまうことです。
しかし明確なペルソナが会社全体で共有されていれば、そういうちぐはぐなことはなくなります。すなわち、ペルソナを明確にすることは整合性のあるブランド戦略を行う上でも欠かせないものなのです。
ペルソナの作成方法
ここからはいよいよ本題に入ります。ペルソナを作成するにはどうすればよいのでしょうか?
ペルソナを作成するプロセスには、大きく分けて次の四つの段階があります。
1、調査
2、ターゲット決定
3、変数設定
4、ストーリー作成
調査
ここはターゲットのあたりをつけるため、情報を収集する段階です。具体的には関連するデータを集めたり、アンケートを実施したりする作業がそれに相当します。
ターゲット決定
ここでは調査で得られたデータをもとにターゲットを設定します。その際、STP分析を活用するとよいでしょう。
STP分析というのは、セグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(市場選択)、ポジショニング(立ち位置の確認)の頭文字をとって名付けられたもので、市場における自社商品の位置づけを確認するための分析ツールです。
変数設定
狙うべきターゲットが定まったら、次にターゲットの属性を示す変数をピックアップします。
変数には多くの種類がありますが、大きく分けると次のふたつになります。
デモグラフィック変数
人口統計学的な属性に基づく変数です。主なものに次のようなものがあります。
・年齢
・性別
・家族構成
・職業
・学歴
・年収
サイコグラフィック変数
心理的属性に基づく変数です。主なものに次のものがあります。
・性格
・価値観
・趣味
・ライフスタイル
他にも多くの変数がありますが、ここでは商品に関係しそうな変数だけをピックアップすればよいでしょう。ただし、一見関係なさそうでいてじつは関係していたという場合もありますので、そのあたりは見極めが必要です。少し多いかなと思うくらいがちょうどよいでしょう。
ペルソナのストーリーを作成する
変数を設定したら、次はそれをもとにストーリーを組み立てます。ここでいうストーリーというのは、ターゲットが自社商品を購入するまで(※)の環境の変化や感情の動きなどを時系列を追ってなぞったものです。
※商品購入までではなく、それを実際に使い、さらにそれに対してどのような感想を抱いたか、そしてそれをどのように社会へ表現したか(SNSによるシェアなど)までを含むこともあります。
ストーリー作成の際、ポイントとなるのは商品を購入する動機です。その動機がどんな場面でなぜ芽生えたのかを探り、それを中心に組み立てます。
ペルソナ分析にはジョブ理論もヒントになる
また動機を探る際、ヒントになるのがジョブ理論です。
人が商品を購入する際、そこには必ず「成し遂げたい目的」があります。ジョブ理論では、その成し遂げたい目的を片付けるべき仕事(ジョブ)とみなし、それを解決するにはどんな「専門家(=商品)」を「雇えば(=購入すれば)」よいかという視点から考えます。
散髪の場合でいえば、髪を切ることが片付けるべき仕事「ジョブ」であり、それは自分だけでは解決できない問題であるため散髪屋のサービスを「雇う(購入する)」ということになります。
同様に、ペルソナのストーリーを作成する際もターゲットが解決したい「ジョブ」は何か、なぜ解決したいのか、という視点から考えていくとストーリーが作成しやすくなります。
ここでとくに重要なのは「なぜ?」の視点です。理由は、その先に「インサイト」が隠れていることが多いからです。
インサイトというのは、先ほども触れたように人を行動に駆り立てる原動力となる心の動き(欲望)です。そこを刺激すれば反射的に行動が発生する心理的なツボのようなものです。
散髪の例でいえばカットするのはジョブに相当するわけですが、なぜカットしたいのかと探っていくとそこにはたんに髪が伸びすぎたので短くしたいという「成し遂げたい目的」ばかりでなく別の「欲望」が潜んでいる場合があります。
たとえば、こんなケースを考えてみましょう。明日、面接があるという人のケースです。その場合、その人の心の中には単に髪を短くしたいだけでなく、よりよく見せたいという気持ちが芽生えるかもしれません。この「よりよく見せたい」という気持ちがここでのインサイトになります。
そして、その場合、その人はおそらくいつもの安い散髪屋ではなく、美容院を「雇用」することになるでしょう。
このようにジョブ理論を応用すると、ユーザーの真の欲求ーーインサイト ーーをより明確に探り当てることができるようになります。そして、それに沿った適切な戦略を立てることによって、ユーザーに対してより強力なアピール手法が開発できるようになるのです。
ペルソナのカスタマージャーニーを意識する
またストーリーを作成する際、カスタマージャーニーを意識するのもよいでしょう。
カスタマージャーニーというのは、顧客がニーズを認識してから商品を購入するまでの一連のプロセスを「旅」にたとえたものです。ベースにあるのは、AIDMAに代表される購買行動モデルですが、これはその各段階における顧客の体験を「見える化」したものといってよいでしょう。
ここでもポイントとなるのはインサイトです。インサイトが明確になれば、それを解決したいと願うターゲットがどのように行動するかはおのずと見えてきます。その行動とそこで体験する感情をなぞったものがカスタマージャーニーです。そしてここでいうストーリーはそのカスタマージャーニーとほぼ一致することになります。
完成したペルソナは社内で共有する
完成したペルソナは、社内で共有するようにしましょう。その際、ペルソナに近い人物の写真を添えるとよいでしょう。その方がイメージしやすいし、感情移入もしやすくなるからです。
さらにそれをイラスト化するのも効果的です。写真だと属性が十分伝わりにくい反面、イラストなら戯画化することで属性も含めひと目でわかるよう端的に表現することができるからです。
ペルソナ分析の際の注意点
最後に注意点についても触れておきます。
ペルソナを作成する上で注意しなければならないことは次のふたつです。
ペルソナは憶測のみで作らない
ペルソナは憶測だけで作成してはいけません。ペルソナは現実のターゲットユーザーと一致しているからこそ効果を発揮するものです。間違ったペルソナでは効果は期待できません。できるだけ多くのデータをもとに、またできるだけ客観的な視点から作るよう心がけましょう。
ただしペルソナはあくまでもひとつの仮説です。そうである以上、最初からどんぴしゃりで正解に辿り着けるようなものではありません。それは試行錯誤を通して少しずつ正解にたどり着くものであることも肝に銘じておきましょう。
ペルソナは定期的に見直す
ペルソナは定期的に見直すことが必要です。なぜなら市場は常に変化するものですし、市場の変化に合わせてペルソナも修正しなければならないからです。とくに売上や問い合わせ数、またその他のKPI指標が悪化した場合、それはペルソナが実際のターゲットと乖離していることを示す警告である可能性があります。調査の上、必要と判断したならば躊躇なく見直しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか? もちろんこれだけで完全に理解したとはいかないまでも、ペルソナ分析についてのおおよそのイメージはつかめたのではないでしょうか。
ということで以下、要点をまとめておきます。
・ペルソナとは、「典型的なユーザー像」を一人の人格として仮想的に設定し、見える化したもの
・ペルソナ分析とはその仮想的なユーザー像をもとにマーケティング上のインサイトを探ること
・ペルソナ分析には、「適切な戦略が立てられる」「社内の意思決定が早くなる」「ブランド戦略に統一感が出せる」といったメリットがある
・ペルソナ設定では、インサイトを中心としたストーリー作成が重要になる
・その際、ジョブ理論とカスタマージャーニーがヒントになる
・ペルソナは、独断と偏見を排し、データをもとに客観的な視点から作成しなければならない
・ペルソナは市場の変化に合わせて定期的に見直す必要がある
要するにペルソナ分析とは、ターゲットの解像度を上げてマーケティングに活かすものといえるでしょう。
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売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。