主にコピーライティングをテーマにするこのサイトを訪れた方であれば、セールスレターというものについては当然、ご存知かと思います。
ーーそうです。商品販売のための売り口上、とくに情報商材のランディングページでよく見かけるやたらと長い、そして売り込み臭にあふれた‥あのいかにもうさんくさい(!)文章です。
そのセールスレターの話ですーー。これがもう時代遅れで、いくら書いても売れないよ、といったらどう思うでしょうか?
それはそうだろう‥と案外すなおに同意する人もいれば、嘘だ!といって反論をまくしたてる人もいることでしょう。
もちろん客観的なデータがない以上、また未来予測である以上、現時点でどちらが正しいかを断言することは至難の技です。けれど少なくとも私はすでに今そうなっているし、近い将来そのことは誰の目にも明らかになるだろうと考えています。
なぜそういえるのでしょうか?
怪しいイメージがつきすぎたセールスレター
最大の理由はそこに怪しいイメージがつきすぎていることです。
といってもこれも客観的なデータがない以上、どれだけの人がどのくらい「怪しい」と思っているのかを立証するのは容易ではありません。
しかし、それを知るには、ネット上の声を拾うだけで十分でしょう。そこにはセールスレターおよびそれが売り込もうとしている情報商材に対する非難や嘲り、中傷や揚げ足取りがあふれています。
それほど一般の人々の間ではセールスレターに対する反感、反発は大きいのです。
そもそもセールスレターの書き方を教えている本職のセールスライターでさえ「あまりやりすぎると怪しくなる」と警告しているくらいです。それは本人にも「それが怪しい」という自覚があるしるしです。
こうしてみると(そうしなくても)、セールスレターに怪しいイメージを抱いている人が一定数ーーそれも無視できないほどの割合でーーいることは市場を読む嗅覚にすぐれたマーケッターならずとも容易にわかるはずです。
もちろん怪しいイメージだけであればそう目くじらをたてることもないでしょう。
では何が問題なのでしょうか?
怪しいイメージのセールスレターではかえって売れない
商品が売れなくなることです。
なぜ怪しいイメージがあると売れなくなるのでしょうか?
信用がなくなるからです。
商売は信用第一です。信用がなければ売れません。
人はそれが本物だという確証が得られない商品にお金を払うことはありません。偽物の商品にお金を払うのは愚か者だけです。そして商品が本物であるかどうかを判断する一番手っ取り早い方法は販売者が信用できるかどうかを確認することです。
したがって販売者に信用がなければ商品が売れることはまずありません。
またここには商売にかぎらない重要なポイントがあります。
それは、人に信用してもらうためには相手の警戒心を解く必要があるということです。
人は見知らぬ人に対しては警戒をした上で接します。危害を加えられたり、騙されたりする可能性があるからです。そのため見知らぬ販売者を相手にした時には心理的防御機能が働きます。
心理的防御機能というのは、あらかじめ心理的な鎧で身を守ることです。
じつは販売側にとってもっとも厄介なのが、この心理的防御機能です。いったんそれが働き出すと相手は聞く耳を持たなくなるからです。
セールスというのは説得です。相手を説得して買わせるためのテクニックです。そして説得でもっとも大事なのは相手の心理的防御を解除することです。そうしない限り、話を聞いてもらえないからです。話を聞いてもらえなければ相手を説得することはできません。ましてや買ってもらうなど夢のまた夢です。
しかるに今のセールスレターは心理的防御機能を解除するどころか逆に強固にさせてしまっています。そこにつきまとう怪しいイメージのせいです。
もちろんそれでは相手を説得し、買ってもらうというセールスレター本来の機能を果たすことなどできるわけがありません。
セールスレターはブランドを損なう
さらにここにはもうひとつ問題があります。それはセールスレターのテクニックを使った途端、その商品まで怪しくなってしまうことです。それまで多くのお客様に愛され、信頼されてきた優良商品であってもセールスレターを使った瞬間、とたんに怪しいイメージがまとわりつき、それと同時に今まで営々と築き上げてきたその優れたブランドにも傷がついてしまうのです。
すなわち、それがよい商品であれ、そうでない商品であれ、どちらにせよセールスレターを使った場合、かえって売れなくなってしまうということです。
ここにあるのは、売るためにあるはずのセールスレターが、それがあるがためかえって売れなくなってしまうという根本的な矛盾です。これではセールスレターというより購入を思いとどまらせる警告レターといった方がよいのではないでしょうか?
しかし、それでも納得しない方はこういって反論するでしょう。セールスレターの手法で売れてる商品もあるのではーー?
たしかに売れている商品はあります。ただしなぜ売れているのかをよく調べるとそこにはある共通点があるのがわかります。
どんな共通点でしょうか?
ひとつめののそれは中身の見えない商品だということです。これは中身が見えないため、購入にあたっては売り手のいうことを全面的に信じるしかない商品です。もっとわかりやすくいえば「看板に偽りあり」の(可能性がある)商品だということです。
ちょっと難しい言葉でいえば羊頭狗肉型の商品です。羊頭狗肉というのはある店が羊の頭を軒先にぶら下げて犬の肉を売っていたという古代中国の故事からきた言葉です。
高価な羊肉が犬肉並みの安い値段で手に入るとなれば、売れないわけがないでしょう。実際、大勢の客がこぞって買い求めたものの、家に帰って確認したら実際には犬肉だったというのがこの話のオチです。
同様に1万円の価値しかないのに100万円の価値があるかのように見せかけたら売れるのは当たり前でしょう。
そう考えれば、中身の見えない情報商材がセールスレター次第で売れるのも不思議ではないはずです。
詐欺商品であることを自ら示すだけとなったセールスレター
もうひとつの共通点は売り逃げ商品であることです。
売り逃げ型商品というのは、リピート購入には期待せず一度で売り切る型の商品です。そして売り逃げ型商品の特徴は羊頭狗肉型の商品と相性がよいことにあります。
なぜでしょうか?
一度しか買わない客は仮に騙されたと知ってもわざわざ訴えてくることはまれだからです。そのため嘘がばれてもその後の商売に影響をおよぼすことはあまりありません。
海外の観光地で外国人客が現地の店から「ぼられる」のもこの「羊頭狗肉」型の販売手法によるものです。
しかし、なぜこのようなことが可能なのでしょうか?
そこにあるのは情報の非対称性です。売る側には商品について十分な情報がありますが、買う側にはわずかな情報しかありません。わずかな情報しか持たない買う側は、買ってみるまでそれが本当に期待通りのものなのかを知るすべがありません。唯一のてがかりは、売り手が発する情報のみです。
そうなるとどうなるかーー? そうです。情報弱者ほど騙されやすくなってしまうということです。
これは詐欺と同じ構造です。
上記のような共通点はとくに情報商材にあてはまります。だから売れている商品の多くが情報商材なのです。
したがって情報商材がなぜ売れているのかと再度問い直せば、こういえるでしょう。
すなわち情報弱者を相手にした詐欺的な販売手法だから売れているのだーーと。
しかし、それが詐欺的な手法であるということは遅かれ早かれ誰の目にも明らかになります。
じつのところ、そうなった結果が、セールスレターと情報商材にまつわりつく「怪しいイメージ」であり、それに対するネット上での「嘲笑や揚げ足取り」なのです。
さらに「詐欺的な情報商材にご注意」という消費者センターからしばしば発せられる警告もそうしたことからくる必然的な帰結といえるでしょう。
それだけ怪しい、いやもっとはっきりいえば詐欺的なイメージがまとわりついているのが今のセールスレターなのです。
以上が、セールスレターはもう売れないし時代遅れであると私が主張する理由です。
これからはノンセールスレターの時代
ではこれからセールスレターはどうなるのでしょうか? 消えるのでしょうか? 何かに代わるのでしょうか?
結論から言いましょう。消えます。そして「ノンセールスレター」に取って代わられます。
ノンセールスレターとはなんでしょうか?
一言でいえば「売り込まないセールスレター」です。
古代中国の思想家・老子の教えである「無為にしてなさざるなし」をもじっていえば、
「無言にして売らざるなし」
を体現したセールスレターです。
そこにあるのは、押し付けがましい売り文句をつらねなくとも、必要最小限の言葉だけで喜んで買ってもらえるのが至上のセールスレター(ノンセールスレター)であるという考え方です。
そもそもマーケティングの目的は、セールス(売り込み)をなくすことにあります。必要な人に必要なものを最小限のコストで届けるのがマーケティングがめざすべき理想の姿です。
その観点からするとセールスはマーケティングの目的と矛盾します。必要のない人に無理強いするセールスは消費者にとっても販売者にとっても不幸であり、また非効率だからです。そうである以上、それはマーケティングの進化とともに消えていく運命にあるといえるでしょう。
だからこそ、ひと昔前に全盛をきわめた訪問販売は絶滅したのです。それがあまりに売り込み臭が強く、必要のない人にまで無理に買わせる手法だったからです。
同様に、必要でない人にもとにかく売ろうとする今のセールスレターも消えるべきであり、また消える運命にあるといえます。
ここ数年、たまたまセールスレターが全盛となっていますが、それは所詮マーケティング進化の死角に咲いた徒花にすぎません。まもなくかつての訪問販売同様、それは絶滅の道をたどることでしょう。
そんな絶滅するセールスレターに代わって今後、登場してくるのが、このノンセールスレターです。
その具体的な中身については今後、少しずつこのサイトで発表していきたいと思います。
どうぞお楽しみに。
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。