元型はユング心理学における概念であり、人類の集合的無意識の中に潜むある種の心的エネルギーともいえる。
何かを認識する際、人は多かれ少なかれこの元型の影響を受ける。その意味で、私はこれを脳の認識パターンとしてとらえている。
たとえば元型のひとつに「英雄」というものがあるが、スーパーマンやウルトラマン、仮面ライダーなどを見る際、私たちの心の奥深くでは「英雄」の元型が刺激され、活性化される。そしてそれが活性化されるからこそ、それらを「英雄」であると認識できるのだ。
仮に「英雄」の元型が心の中に存在しなければそれを英雄と認識することはできないし、そもそも英雄の意味も分からないだろう。
それは猫にとってスーパーマンと悪漢の区別がつかないのと同じである。いやあるいは「悪い人」と「善い人」の区別くらいはついているのかもしれないが、猫がスーパーマンに対してその背後にある「英雄という物語」までも認識した上できちんと区別しているとは思えない。
ところで、これを別の視点からみれば、元型にはある種の吸着機能があるということがわかる。上の例でいえば、スーパーマンとウルトラマンと仮面ライダーは「英雄」という同じ元型の周りに吸着する形でーすなわち似たものとしてー認識されているはずである。というより、似た事象を認識する際、ある特定の元型を介して認識する以上、そうならざるをえないであろう。
こうしてみると、恋は盲目というのもこの元型の吸着機能で説明がつくのではなかろうか。一目惚れというメカニズムの裏にあるのもおそらくこの元型かもしれないし、またアバタもエクボに見えるのもその吸着機能による錯覚とみなせるかもしれないということだ。
さらにもしそうであればこの元型を活用したマーケティングというものも考えられるだろう。もっともそれはかなり効果的なものになる反面、洗脳的なテクニックとして使われた場合、きわめて危険なものになる可能性もあるわけで、それについては十分注意すべきであるのは言うまでもないが。
売るためのマーケティングから課題解決のためのマーケティングを提唱する独立系シンクタンク「ミライニウム」を主宰するマーケティング研究者。コピーライター、雑誌ライター、プランナーとして30年以上にわたり、マーケティングの実践および研究を続けている。北軽井沢隣接宣伝研究所所長。